宗教と科学の関係についての考察
(新島学園短期大学研究紀要)  


宗教と科学の関係についての考察
―宇宙の創造をめぐって―

小和瀬 勇


Considering the Relationship between Religion and Science
―About the Creation of the Cosmos―

Isamu Kowase


Niijima Gakuen Junior College
Takasaki, Gunma 370-0068, Japan



- 要 旨 -
 本稿では、宇宙の創造をめぐって、プロテスタント教会における信仰告白及びアインシュタインの相対性理論の関係について論述し、両者から得られる果実を考察した。

- Abstract -
 About the creation of the cosmos, this article discusses the relationship between the confession of faith in the Protestant Church and Einstein's Theory of Relativity. It considers the fruits from both sides.


第1章    はじめに

 1962年、当時日本の最初のノーベル賞受賞者(物理学)である湯川秀樹京都大学教授が群馬県の高崎高校に来られて、「現代の物理学」という講演をされた。講堂での講演の後、生物室の教室で少数の学生に、質問の時間を用意してくださった。その時、学生からの「これからの時代は科学がどこまで進歩しますか?」という質問に対して、湯川秀樹博士は「これからの時代は科学がものすごく進歩しますが、どんなに進歩しても、人類には二つの解決できない神秘のものがあり、それは『宇宙』と『生命』の神秘であります。これは人類の永遠の神秘です。」と語った。学生に大きな感銘を与えてくださり、目の前で静かに語られた湯川博士の穏やかなお姿は、今でも目に浮かんでいる。
相対性理論をつくりあげた物理学者アインシュタインは「宗教なくして科学は不具であり、科学なくして宗教は盲目である。」と言っている。さらに、「わたしたちには理解できないものが存在し、それが最高の知恵と美として具現しているということ、人間の乏しい能力をもってしては、はっきりとは知覚できないものがあるのを知っていること、それが真の宗教心の核心であり、そういう意味では、わたしは非常に信心深い人間である。」とも言っている。
そこで、宗教と科学とはどのような相関関係があるのか、宗教と科学との関係はどのように把握したらよいのか、その具体例として、宗教と科学との関係を論じる思考対象として、宗教改革後に表された「プロテスタント教会における信仰告白(信条)」と「アインシュタインの相対性理論」の関係について考えてみたい。


第2章 プロテスタント教会における信仰告白と宇宙の創造について

 旧約聖書の冒頭にある創世記1章には、宇宙のはじまりが描写されている。
≪神が天地を創造したはじめに、地は荒涼、混沌としていて、闇が淵を覆い、暴風が水面を吹き荒れていた》
≪『光あれ』と神がいった。すると光があった。神は光を見てよしとし、光と闇を分けた。神は光を昼と呼び、闇を夜と呼んだ。夕となり、朝となって1日が終わった。》 このように、創世記は筋道を通して宇宙の創造を語り、次に植物・動物・人類の創造を示している。旧約聖書の中には、人類の歴史が記されており、旧約聖書を経典とするユダヤ教が生まれ、さらにユダヤ教を母胎としてキリスト教が生まれた。
  16世紀の宗教改革を経た各プロテスタント教会は、その歴史において信仰の立場と自らの歩みを明確にするために信仰告白を持ち、それを守ってきた。信仰告白は教会が立つところの信仰的・教理的基準である。教会は信仰告白を持つことによって、信仰の基準を明確にし、思考と生活の方向を示してきた。特に、16~17世紀に起こったプロテスタント教会における信仰告白の出現を確認することが重要である。その主要な信仰告白を教派別にて、下記に示す。
〇ルター派:ルターの大・小教理問答、アウグスブルク信仰告白等
〇改革派:ジュネーブ信仰問答、チューリッヒ一致信条、フランス信条、スコットラ ンド信条、ベルギー信条、第二スイス信条、ハイデルベルク信仰問答、ドルト信仰基準、ウェストミンスター信仰告白、ウェストミンスター大・小教理問答等
〇英国教会:聖公会大綱
〇バプテスト派:スタンダード信仰告白
〇会衆派〔日本では組合教会とよばれている〕:サヴォイ宣言
 以上に揚げたような信仰告白を経て、現在のプロテスタントの各教会は、それぞれの教会において、各々の信仰告白を築き信仰を守り継承している。
 ここで「ウェストミンスター信仰告白」に注目したい。その第4章「創造について」には、「父・子・聖霊なる神は、ご自身の永遠のみ力、知恵、および善の栄光の現れるために、初めに、世界とその中にあるすべてのものを、見えるものであれ見えないものであれ、すべてはなはだ良く創造すること、すなわち無から作ることをよしとされた。」とまとめられている。創世記1章1節の「はじめに神は天と地を創造された」という時、この創造は無からの創造を意味している。したがって、時間も空間も被造物であり、世界の始まりと共に時間も空間も始まったと考えられる。
 すなわち、「ウェストミンスター信仰告白」の教理によれば、時間の流れが前後に無限に流れていて、過去の時間のある1点で世界が創造されたものでなく、時間も空間も世界の創造と共に始まったものと理解できるのである。


第3章 アインシュタインの相対性理論から現在まで

 アインシュタインは光速不変の原理と相対性原理という単純な原理から論理を尽くすことで特殊相対性理論をつくりあげた。そして、単純な重力と加速度運動の等価原理から論理を尽くすことで一般相対性理論をつくりあげた。この特殊相対性理論と一般相対性理論は、現在のわれわれ人類が存在している4次元の時空の世界(3次元の空間と時間の融合したもの)が論理的に運動していることを説明している。
 この理論によれば、質量とエネルギーとは同等であって、質量 m〔kg〕はエネルギー E=mc2〔J〕 に相当する。ここで、cは真空中の光の速度である。
(c=3×108m/s)
 そして、アインシュタインの相対性理論以後、真理探究の様々な研究が続けられ、137憶年という宇宙の歴史が明らかになりつつある。その研究の歴史は逆転につぐ逆転の連続である。宇宙の姿やその誕生のメカニズムを解き明かし、同時に原子、素粒子、クォークといった微小な物のさらにその先の世界を説明する仮説の理論ではあるが、超弦理論も登場している。
 日本の宇宙論の第一人者である佐藤勝彦東京大学大学院元教授は、「不思議に思えることは、この宇宙の物理法則が、人間がちょうど誕生できるように精密に微調整されているように感じられることである。宇宙とそれを支配している物理学の法則は、人間が生まれるようにデザインされていると思えるのである。」と言っている。

次に、アインシュタインの相対性理論から得られる正と負の果実を述べる。

3.1 正の果実
 自動車、船舶、航空機の移動や携帯電話、パソコン、防犯装置等に使われているGPS(全地球測位システム)は、衛星搭載の時計と地上の時計の時間がずれてしまうと、正しい位置情報を得ることができないが、アインシュタインの相対性理論による計算式によって補正され運用されている。すなわち、重力・速度の天上と地上の相違から生じる時間のずれをアインシュタインの相対性理論による計算式が補正をしているのである。われわれが現在日常の日々の生活において、実際に4次元の世界の中で、アインシュタインの相対性理論から恩恵を受けている一例である。
 最近では、加速器の進歩で、癌を死滅させる重粒子線治療等の医療の分野でも、人類に大きな貢献をしている。個人的なことであるが、筆者は最近この治療を体験し、現在、健康が維持され感謝している。
 従来の物理の常識と思われていた「時間」と「空間」の概念を新たに構築し直したアインシュタインの相対性理論が人類に与えた最大の貢献は、太陽を輝き続けさせている核融合や素粒子・宇宙の研究、宇宙の未来までを解明する最先端の科学技術を呼び起こしたことだと思う。21世紀の最先端科学技術は、聖書の真理にかなり近づいていると思う。

3.2 負の果実 
 E=mc2は、物質は膨大なエネルギーのかたまりであることを示している。このように、アインシュタインの相対性理論によって、生み出されたE=mc2という数式から生まれた原子力革命は、人類の生活を驚くほど豊かにして、無尽蔵の夢のエネルギーを手に入れたかのように思われていた。
 しかし、原発事故や原子爆弾という巨大な破壊力を秘めた悪魔の災いを生み出すことにもなってしまった。
 人類は隣人を愛し、被造物を耕し守る任務を負っていたが、神を憎み利己的になって隣人を貪るようになった。科学は神の御心に沿って用いられるならば救済的になるが、神に背くと人間と被造物を害するものとなる。



第4章 プロテスタント教会における信仰告白とアインシュタインの相対性理論の関係

 宗教と科学との関係の具体例として、プロテスタント教会における信仰告白とアインシュタインの相対性理論から導かれる「宇宙の創造」と「人類の堕落」について述べてみたい。

4.1 宇宙の創造
  現代の科学者は、アインシュタインの相対性理論により生み出された E=mc2 に従い、物質をエネルギーに変えることができると同様に、エネルギーを物質に変えることができると考えている。従って、宇宙にあるすべての物質はエネルギーから造り変えられたものと考えられるのではないかと思う。創世記の創造は無からの創造を意味しているので、「ウェストミンスター信仰告白」第4章「創造について」における「ご自身の永遠のみ力」のある神が宇宙にあるすべての物質を創造したと考えたい。

4.2 人類の堕落
 聖書には、万物と人類の創造の後、人類の堕落が書かれている。堕落の結果、ハイデルベルク信仰問答第5問が言うように、人間は「生まれつき、神と隣人を憎む傾向にある」ようになってしまった。すなわち、人は生まれつき利己的になり隣人を自分の道具とする傾向を持ち、隣人のものを貪り、自分の意に沿わない他者には殺意さえ抱くようになった。カインは弟アベルを殺害した。カイン以来の反逆の罪は、大洪水の裁きを経てもバベルの塔建設で神に背を向け、現代の核兵器開発・制御不可能な原発へと現代まで続いているのである。


第5章 おわりに

詩篇148篇は、天地万有が神を賛美すべきことを促している。

「主をほめたたえよ。日よ。月よ。
 主をほめたたえよ。すべての輝く星よ。
 主をほめたたえよ。天の天よ。
 天の上にある水よ。
 彼らに主の名をほめたたえさせよ。主が命じて、彼らが造られた。」
              (新改訳:詩篇148篇3~5節)

 若い男よ。若い女よ。年老いた者と幼い者よ。
 彼らに主の名をほめたたえさせよ。主の御名だけがあがめられ、
 その威光は地と天の上にあるからだ。」
              (新改訳:詩篇148篇12・13節)

 われわれ人類は、被造物の管理を創造主より委ねられた重責があるが、そのためには、人類は創造主が喜ばれる世界を祈り求めなければならない。そして、まず人類が創造主を賛美し、次にすべての被造物にも創造主を賛美させるようなことが起これば素晴らしいと思う。
  哲学者カントには、アインシュタインとよく似た下記の言葉がある。
 「内容を伴わない思考は空虚であり、概念を伴わない直感は盲目なのである。」
 矢内原忠雄は「真の宗教は、科学的合理主義を含みつつそれよりも大きく、道徳主義を含みつつそれよりも高くある。」と述べている。
 ローマの信徒への手紙1章20節(新共同訳)には『世界が造られたときから、目に見えない神の性質、つまり神の永遠の力と神性は被造物に現れており、これを通して神を知ることができます』と書かれている。プロテスタント教会における信仰告白を視座としてアインシュタインの相対性理論から得られる果実とは、如何なるものか?それは、『ローマの信徒への手紙1章20節』が真理であると確信できることであると思う。すなわち、その果実は、「神を知ること」であると思う。
 
 J・I・パッカーは「私たちは何のために造られたのだろうか。神を知るためである。人生の目当てを何とすべきだろうか。神を知ることである。イエスがお与えになる『永遠のいのち』とは何だろうか。神を知っていることである。神は、人間のうちにある何を最もお喜びになるだろうか。ご自分を知っている状態である。」と言っている。


参考文献
■E・ケァンズ(1957)「基督教全史」聖書図書刊行会
■宇田 進(1984)「福音主義キリスト教と福音派」いのちのことば社
■宇田 進 他(1991)「新キリスト教事典」いのちのことば社出版部
■岡田稔(1985)「改革派神学概論」聖恵授産所出版部
■尾山令仁(1989)「聖書の教理」羊群社
■加藤常昭(1992)「ハイデルベルク信仰問答講話(上)・(下)」教文館
■キリスト教文書センター(1957)「信条集 前・後篇」新教出版社  
■久保有政(1989)「科学の説明が聖書に近づいた」レムナント出版
■小久保英一郎 嶺重 慎(2014)「宇宙と生命の起源2」岩波書店
■酒井邦嘉(2016)「科学という考え方」中公新書
■佐藤勝彦(2012)「100分で名著 アインシュタイン 相対性理論」NHK出版
■佐藤勝彦(2010)「宇宙137億年の歴史」角川学芸出版
■佐藤勝彦(2008)「宇宙論入門」岩波書店
■J・I・パッカー「神を知るということ」いのちのことば社
■ジェリー・メイヤー ジョン・P・ホ-ムズ「アインシュタイン150の言葉」ディスカヴァー・トゥエンティワン
■玉木 鎮(1969)「ウェストミンスター小教理問答講解」聖恵神学シリーズ
■日本基督改革派教会大会出版委員会(1994)「ウェストミンスター信仰基準」新教出版社
■原島 鮮(1963)「物理学(下)」学術図書出版社
■フランク・コール(1960)「キリスト教弁証論」 聖書図書刊行会
■水草修治・内藤新吾(2014)「原発は人類に何をもたらすのか」いのちのことば社
■嶺重 慎 小久保英一郎(2004)「宇宙と生命の起源」岩波書店
■矢内昭二(1969)「ウェストミンスター信仰告白講解」新教新書
■矢内原忠雄(1968)「キリスト教入門」角川選書